大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和55年(行ウ)1号 判決 1981年8月24日

原告 森山貞雄

被告 大江政雄

主文

一  被告は浜益村に対し、金三五万円及びこれに対する昭和五五年二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、第二項同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、浜益村の住民である。

2  訴外浜益自動車運送株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和五二年七月七日、札幌地方裁判所に被告に対する損害賠償請求訴訟(同裁判所同五二年(ワ)第一三四九号事件、以下「本件(ワ)第一三四九号事件」という。)を提起したが、右事件は、訴外会社において、先に浜益村を被告として提起した同裁判所同五二年(ワ)第二八号請負代金請求事件(以下「本件(ワ)第二八号事件」という。)と併合された上、いずれもその請求を棄却する旨の判決がされた。訴外会社は、同五四年四月二六日、札幌高等裁判所に対し、右各事件について控訴をし(同裁判所同五四年(ネ)第一五〇号事件、以下「本件(ネ)第一五〇号事件」という。なお、本件(ワ)第二八号事件、本件(ワ)第一三四九号事件及び本件(ネ)第一五〇号事件を総称するときは「本件各事件」という。)、右事件は、現在、同裁判所に係属中である。被告は、弁護士坂下誠(以下「坂下弁護士」という。)に対し、本件(ワ)第一三四九号事件及び本件(ネ)第一五〇号事件について訴訟追行を委任したものである。

3  被告は、浜益村村長であつたが、昭和五四年六月二八日、坂下弁護士に対し、本件(ワ)第一三四九号事件及び本件(ワ)第二八号事件の謝金(成功報酬)として金五〇万円並びに本件(ネ)第一五〇号事件の手数料(着手金)として金二〇万円、合計金七〇万円を浜益村予算から支出させて、支払つた。

4  しかしながら、右謝金金五〇万円中本件(ワ)第一三四九号事件に対する支出部分及び右手数料金二〇万円中被告を被控訴人とする部分についての支出部分は、浜益村と坂下弁護士との間に何ら訴訟委任等の関係がないから違法であり、被告は、右違法な公金の支出により、浜益村に対し、右違法支出分に相当する損害を与えたので、これを賠償する義務がある。

なお、右違法支出分に相当する損害は、右謝金金五〇万円及び手数料金二〇万円合計金七〇万円が一個の支出決定により支払われたため特定できないが、被告と浜益村との間で平分するのが相当であると考えられるから、謝金分金二五万円及び手数料分金一〇万円合計金三五万円が、被告のために支出されたものと考えられる。

5  原告は、地方自治法二四二条一項に基づき、昭和五四年一一月九日、浜益村監査委員に対し、監査、是正措置の請求をしたが、同監査委員は、同五五年一月五日付で右請求は理由がないものと認め、原告にその旨の書面を送達して通知し、同通知は、同月七日、原告に到達した。

6  よつて、原告は、被告に対し、地方自治法二四二条の二に基づき浜益村に代位して金三五万円及び本訴状送達の日の翌日である昭和五五年二月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の事実中、被告が浜益村長であつたこと、被告が原告主張の日に坂下弁護士に対し、浜益村予算から計金七〇万円を支出させたことは認めるが、その余の事実は否認する。右金七〇万円は、浜益村の本件(ワ)第二八号事件の謝金及び本件(ネ)第一五〇号事件のうち本件(ワ)第二八号事件の控訴にかかる分の手数料に相当するものであり、したがつて、これには被告の本件(ワ)第一三四九号事件の謝金及び本件(ネ)第一五〇号事件のうち本件(ワ)第一三四九号事件の控訴にかかる分の手数料は含まれていないものである。

3  同4の事実は否認する。

4  同5の事実は認める。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二1  成立に争いのない甲第二、第四号証、第七号証(甲第二、第四号証については原本の存在についても争いがない。)、同乙第三号証、証人坂下誠、同佐藤勉の各証言、被告本人尋問の結果によれば、

(一)  被告は、前記一の争いのない事実のとおり、坂下弁護士に対し、本件(ワ)第一三四九号事件及び被告を被控訴人とする本件(ネ)第一五〇号事件について訴訟委任をしたが、一方浜益村も、同弁護士に対し、本件(ワ)第二八号事件及び本件(ネ)第一五〇号事件について訴訟委任をした。そして、被告は、同五二年七月一七日、同弁護士に対し、本件(ワ)第一三四九号事件の手数料として金三〇万円を浜益村予算から支出させてこれを支払つた。

(二)  坂下弁護士は、昭和五四年五月二五日付で、浜益村に対し、訴訟の受任に伴う報酬として金七〇万円の支払を求めたところ、被告は、右金七〇万円支出のため、同年六月二五日開催の同年第二回浜益村村議会に、右支出を含む同年度浜益村一般会計補正予算案を提出し、同議会の議決を受けた上、同月二八日付で同弁護士に対し、右の補正予算に基づき、金七〇万円を支払つた。ところで坂下弁護士が右のとおり浜益村に右金七〇万円の支払を求めた請求書及び浜益村が右金員を同弁護士に支払う際に作成された支出伝票の品名欄には、いずれも本件各事件の事件番号が記載されている。

(三)  被告は、前記金七〇万円の支出を含む一般会計補正予算案についての村議会において、右金七〇万円の支出について、本件(ワ)第二八号事件及び本件(ワ)第一三四九号事件の謝金並びに本件(ネ)第一五〇号事件の手数料を含む趣旨であると解される説明をした。なお、原告は、昭和五三年四月七日、被告が前記のとおり坂下弁護士に対し本件(ワ)第一三四九号事件について手数料金三〇万円を浜益村予算から支出させたことについて、札幌地方裁判所に対し、浜益村を代位して損害賠償請求訴訟(同裁判所同五三年(行ウ)第七号損害賠償請求事件)を提起し、同裁判所は、同五四年七月一七日、右事件について請求を認容する旨の判決を言渡し、その後右判決は確定したが、被告は、少なくとも右一審判決がなされるまでの間、同弁護士に対する右金三〇万円の支出が違法であるとは考えていなかつた。

(四)  そして、被告自身は、坂下弁護士に対し、本件(ワ)第一三四九号事件及び本件(ネ)第一五〇号事件に係る手数料又は謝金を一切支払つていない。

以上の事実が認められる。

2  もつとも、成立に争いのない甲第三号証 証人村田健の証言により真正に成立したものと認められる乙第五、第六号証、証人坂下誠、同佐藤勉の各証言、被告本人尋問結果の中には、被告は、昭和五四年四月又は五月ころ、坂下弁護士と本件各事件の弁護士報酬について話合い、その結果、浜益村においては、本件(ワ)第二八号事件の謝金及び浜益村を被控訴人とする本件(ネ)第一五〇号事件の手数料として合計金七〇万円を支出することとするとともに、他方、本件(ワ)第一三四九号事件の謝金及び被告を被控訴人とする本件(ネ)第一五〇号事件の手数料については、後日本件(ネ)第一五〇号事件が終了してから話合うこととしたこと、前記浜益村宛の請求書に本件(ワ)第一三四九号事件の事件番号が記載されているのは、坂下弁護士事務所の事務員の事務手続上の過誤によること、右請求書の送付を受けた浜益村においても、昭和五四年六月下旬又は同年七月上旬ころまでの間、右の誤記に気づかなかつたとの部分があるが、前記認定事実、前記二1に掲げた各証拠及び弁論の全趣旨に照らすと、直ちに採用しがたい。

また、成立に争いのない乙第一、第二号証、同第四号証中には、前記二1(二)の認定事実に反するかのごとき部分があるが、証人坂下誠、同佐藤勉の各証言、被告本人尋問の結果によれば、右各証拠はいずれも前記の補正予算が成立し、これに基づいて浜益村から坂下弁護士に対して金七〇万円が支出された後に作成されていることが認められるので、右各証拠をもつて前記二1(二)の認定事実を左右することはできない。

他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

3  右1に認定した事実によれば、被告が昭和五四年六月二八日付で浜益村の予算執行として坂下弁護士に対して支出した金七〇万円中には、本件(ワ)第一三四九号事件の謝金及び被告を被控訴人とする本件(ネ)第一五〇号事件の手数料を含むと認めるのが相当である。

ところで、右各事件は、いずれも被告個人を被告又は被控訴人とするものであるから、その訴訟追行に用する費用は、被告個人が負担すべきものであるところ、村が右の費用を支出することは、被告個人に対する給付であるというべきであるから、地方自治法二〇四条の二により、違法であるといわざるを得ない。(なお、原告は、本件(ワ)第二八号事件及び本件(ワ)第一三四九号事件の謝金が金五〇万円で、本件(ネ)第一五〇号事件の手数料が金二〇万円の割合で支出されたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)。

そこで、右支出金七〇万円中、右違法支出部分の割合について判断するに、証人坂下誠の証言、被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨により認められる本件各事件の諸般の事情などを考慮すると、右支出金七〇万円は、被告と浜益村の各応訴費用に対して平分に支出されたものと推認するのが相当であるから、右違法支出部分の額は、金三五万円であると認める。

三  よつて、被告は浜益村に対し、右金三五万円及びこれに対する弁済期の後であり、本訴状送達の日の翌日であることが記録上明白な昭和五五年二月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務あることは明らかであり、地方自治法二四二条の二に基づき浜益村を代位してその支払を求める本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、仮執行宣言については、相当でないからこれを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 磯部喬 門口正人 土屋靖之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例